BH 6






 女の唇が腫れ上がるほど吸っても、もっと奪いたくなっていくばかりだ。

「お前を、抱く」

 ハーリーンは、バットマンを睨んだ。

 この男は意地悪だ、と思っていた。紳士的に見せて、今更善人ぶってる。

 敵の女と寝てるくせに。


「もう、いいったら」

 ハーリーンは睨んでいるつもりだろうが、メイクのない顔では迫力がない。拗ねているようにしか見えなかった。

 バットマンはそれを可愛いと思った。

 再び口を寄せ、唇を重ねる。今度は、優しく。

 そうしながら、指を秘所に入れた。キスをしたままのハーリーンの口が呻く。

 一本は、やすやすと飲み込んだ。

 バットマンの体格に見合って大きく長い指の一本が、ヒルダのナカに器用に入り込んだ。

 指が、最奥を突付いた。

「……あ!」

「わかるか」

 バットマンの声が笑いを含んでいたら、なぶられている気分になっただろう……たとえバットマンが純粋に嬉しがっていたとしても、そんな声音で弄んでくる男悪魔は、一人で充分だったから。

 だが、かすれたバットマンの声の響きは、真剣で温かみがあった。

 案外、ロマンティックな男のような気がする。

 抱き方で分かるほど、場数は踏んでいないけれど、こういうのは体感だ。

 バットマンがまた、指でハーリーンの最奥部らしい行き止まりに優しく触れると、自分の意思とは別に体が浮き上がって跳ねた。

「お前の……」

 言いかけてバットマンが口ごもった。

(そっか、私の子宮……に触ってるんだ)

 いじられるのには慣れていない。

 ハーリーンはバットマンの、女の体を知り尽くした指に、己が自分の体について何も知らないことを、知った。

 ジョーカーは快楽犯罪者らしくナルシストで、変わった体位は試したがったし、創意はあったが、おおよそ女体に対して親切な男とはいえない。

 バットマンはやはり、正義の味方。

 なぜなら、女の体を丁寧にいとおしむ術を心得ているから。

 犯罪者では、よほどの高度な知能犯であっても、結婚詐欺師でない限り、有り得ないことだ。犯罪心理分析でも、良く指摘されていた。

 バットマンは目を開けてハーリーンの金髪を眺める。

 再びキスして喘ぎを吸いながら指を動かし、次には指の数を増やした。

 女が、唇が離れたとき囁く。

「……痛いよ」

 まだ、二本だ。

 ハーリーンは大人しく耐え、バットマンはそのまま指を抽出して慣らしたが、スムーズに出入りするようになるまで時間が掛かった。

 随分と、御無沙汰の様だ。そう感じたと同時に、バットマンは全身が燃え立つほど奮い立った。

 ハーリーンの脚を気遣いはしたものの限界まで開き、バットマンは己の腰で乗り入れた。

 手で勃起した己のものを支え、滑らないように中心へと挑ませる。

 ハーリーンを眼下に見ながら交わるのは、最高の眺めだった。

「あ、あ……っ」

 無理だ、と感じるほど大きく太いものに押し開かれ、ハーリーンは片腕を目の上に乗せて、片手で枕を握り、全身に汗を噴出させる。

 ハーリーンの肌が、暗闇で発光しているかのように濡れていた。苦しみの汗か。

 虐めているような気がして、心が痛んだが、やめたくなかった。色々言い訳はあれど、やめられない、とも思っていた。

 もう、先端が入っている。

「狭い」

 バットマンが囁く。呻きに近かった。

 中々披かず、入れても、半分しか入らない。体位を変え、細腰を抱え上げて膝裏を取る。

「あ、っ……入っ、ちゃう……!」

 微かな戸惑いの叫びを気にしながらも、上から串刺しにすると、動きが容易くなった。

 ハーリーンは目をきつく閉じ、口に手の甲をを押し付けて喘いでいる。

 狭い場所で少しずつ進み、引き出す。いったん外れ、再び足を抱え上げて、入れる。

 その間、ハーリーンは楽になろうと息を荒げていた。

「やぁ、大きい」

 入り込まれて女は口にした、知性の感じられない痴れた言葉に、バットマンはむしろ興奮した。

 いつもはそんなことはないのだが、相手が女怪人だから、蔑みすれすれの愛しさに頭の芯が支配されるのか。

 全身を、串刺しにしてやりたい。この男根で。

 馴染み始め、抽出の滑りが良くなっていくと、規則的に腰を浅く打ち付ける。段々と深くなっていっているが、全部は入れられそうもない。

「啼け」

 バットマンが顎を掴み、口を開けさせる。ハーリーンの目が潤んで、見上げてきた。

「気持ち、いいよぉ……っ」

 ハーリーンの歓喜の泣き声に、バットマンの背骨を快感が駆け上がった。

 バッドマンの突きが激しくなり、ハーリーンが何度も空気を求めて口で息をしている。

 揺さぶられ、行き場をなくしたハーリーンの手がシーツを掴むのを、バットマンの手が上から捕まえる。

 馴染んで動きがスムーズになったあたりで。

 深呼吸でバットマンの抽出を受け止めていただけの粘膜が、反応を返したのは。

「どうだ、好いか」

 ゆっくり続けて、女体の方が腰を持ち上げ、バットマンの突きに合わせて突き返してくるまで、煽った。

 男にとっても、我慢比べ以上の甘い拷問の一時だったが。

 黒い甲冑の前で披かれた白い肉体が、酷く長い責め苦に大きく仰け反る。締め返して来る強さが高じてきていた。

 金髪が、汗の浮き出した鎖骨や首筋に絡みつき、鬱陶しそうだ。

 バットマンは手を伸ばし、髪を喉から払ってやった。その手で胸の突起を抓ると、ハーリーンが反った。

「ああ、……ダメ……」

 繋がった部分から快楽が溢れて、ハーリーンが大きく悲痛に、啼いた。

「もう、イッてよぉ……っ」

 ――そう、言うのなら。

 明らかな降参宣言に、バットマンの唇が勝利の愉悦で引き攣る。

「ウ……ッ」

 奥歯を歯軋りさせ、バットマンの筋肉が硬直した。尾てい骨から項へ、快感が電流のように駆け上がる。

 脳天を突き抜け、側頭葉の毛が逆立つ感覚に包まれた。

 数瞬後、絶頂は全身を震わせながら漂い、収束の気配を見せる。

 止まったのは一時だけで、射精しながら、バットマンはゆっくりとすべてが終わるまで、動いていた。



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 バットマンの胸に凭れて、異常なまでに大人しくしていたハーリーンが、顔を上げた。

「お前のこのスーツ、冷たいし、痛い。カラダ中、擦り傷だらけだよ。ほら、レイプの擦過傷」

 恥じらいも無く片足を広げ、内股を見せる。

 先程まで桃色に上気していた、白い内股の柔らかい膚に、赤い擦り疵が見て取れた。

 固いアーマーで摩擦したせいだ。しかも激しく打ち続けた。一番弱い皮膚に。

 バットマンは平常の声で平然と答えて見せた。

「レイプじゃない」

「レイプだよ」

 頬を膨らますハーリーンに諭す。

「レイプは、こんなものじゃない」

 バットマンは呆れながら安堵する。

 こんな軽口が叩けるのなら、この女は犯された事はあるまい。ああ、良かった、と。

 一度寝ただけの、敵の女だとしても、バットマンのものを傷つけたのなら、もはや赦せぬところまで思い入れはある。

 バットマンは正義の側だから。

 バットマンの心知らず、

「じゃあやってみなよ、教えてよ」

 そう言った途端、ハーリーンはまたむしゃぶりついてきた。明らかな意図を持って――手がバットマンの首に掛かる。

「ギャッ!」

 猫が潰されたような声を上げて、ハーレーンがベッド上にうずくまる。

 しまった、電撃を切っていなかった。

 バットマンは肩に手をやり、すまないという気持ちを込めて撫でた。

「触るからだ」

 涙目の顔を上げ、ハーリーンがバットマンの肩を殴った。結構本気だ。そして吐き捨てる。

「このッ……顔くらい見せたらどうなのよ、ジョーカーに教えるのに」

 カチンときても仕方あるまい。

 ぼかぼかとめちゃ殴りをしてくる腕を手で払っていたが、その拳が生身の口許をかすって、バットマンの眼に凶暴さが戻った。射精して、獣は気分良くまどろんでいたのに。

 ハーリーンの体を軽々と持ち上げ片手で支えたまま、片手で腕を拘束した。

 暴れる脚の間に、胴を割り込ませたところで、動きが止まった。

「これは、レイプか」

「そうだよ、また、やるんでしょ……?」

 復活したバットマンの剛直に触れさせられ、ハーリーンが震えた。

 貫かれたときを思い出した武者震いだったが、バットマンはそうは受け取らなかったようだ。

 男の腕の力が萎えそうになったのを、ハーリーンは気付いて、耳元で言った。

「はめて」

 ――何て事を言うのだ、歳の割りに幼い顔をしているくせに。

 バットマンは望むとおりにしてやった。脚を開かせ、ひだを掻き分けて、より優しく。

 アームスーツを珍しそうに撫でる手が肩に差し掛かったとき、

「脱いで欲しいか」

「え……」

 闇に包み込まれるようで悪くないけれど、確かに、寝るときは相手も裸になって欲しいものではある。

 そこで、ハーリーンはバットマンの全身をまじまじと眺めた。

 黒は喪、闇、隠したいこと。筋肉を模した甲冑は男性性と攻撃性の現われ。

 機能性重視なのは、バットマンが高慢でなく冷静な頭のの持ち主だから。

 ただの勘違いした正義の暴漢、自分に嘘をついて、正義の名で好き勝手するヤツだと信じてた。

 私たち怪人は、いつだって純粋で正直だから、汚れた正義より上だと思った。

 でも今はそうは思えない。
 
 獣性を持った男であることは身を持って知ったけれど、同時に優しさと情熱をも知ったから。

「お前、美しい1ね。私なんか……絶対、敵わないよ」

 ジョーかーは、だからバットマンに構うんだ、きっと。

 柄にもなくしおらしくシュンといたハーリーンに、バットマンはむしろ、驚いた。

「馬鹿なことを」

 女の美しさに、男が敵うわけがない。

 でなければ、なぜ、古今東西から女の姿だけを写し取る芸術家ばかりが目立つのだ?
 
 耳元で囁いてやると、ハーリーンはくすぐったそうに笑った。
 
 柔らかい頬を撫でながら、バットマンは覗き込む。
 
 ハーリーン――ハーレイ・クインの無邪気な青い瞳の中には、燃え盛る悪がある。