【―a virgin―1、2】
now
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ある時期から話しもしなくなっていた。
仲は悪くないけど、ニックから送られる意味深な、どこか悲しげな目で見つめられるのが嫌で、カーリーが避けていたから。
中学卒業の頃くらいまでは仲が良かったぶん、余所余所しかった。
遠巻きだった関係なのに、兄貴の厭味が度を越して”最悪”レベルにまで達したのは、高校生になって、カーリーがウェイドと付き合い始めた頃だった。
特に我慢ならないのは、親のいないところで繰り返される嫌がらせだ。
パパとママが夜遅くなる日、カーリーが夕食皿を食器洗い機にセットしてる時に、またニックがソファから話し掛けてきた。
「もう、ヤッたのか? あいつと…」
今回は前置きもナシだ。
夕方ウェイドの車で、送られてきたからって。
「兄貴、やめて」
「何で訊いちゃいけない? お前らもヤリたい盛りだろ、あの坊ちゃまだってどうせ雄犬さ」
「やめて」
カーリーは耳を塞いだが、ニックはやめない。
「まあ、あいつ、奥手そうだからな。初体験は二人して大事に取ってあんのか? 一年目の記念日にでも……」
「わかった! もう寝たわ、彼とヤッたの。恋人だもん、当然よね。そう言えば、満足?」
ニックは怒ると思っていた。
自分で訊いて置いて、「よくもそんなふしだらなことを言いやがる」とか言ってくると思った。
が、ニックは振り返りもせず、そこで黙った。
「――へえ…」
ああ、やっと言われなくなる。
兄貴の当て擦りには、うんざり……。
カーリーはソファに座る兄の後姿を睨みつけて、自分の部屋へと戻った。
――――――――――――――
躯を撫で回されている。
優しく、少しいやらしく。
甘い疼きが胸の二つから、脚の間に伝わって、潤う感触が広がった。
「ん…」
いつものやらしい夢だ――身体を自由にされる夢。
今夜は早くベッドに入ったから、夜中に目が覚めちゃうのかな。
寝返りを打とうとした時、誰かの身体の温かい一部が当たって、カーリーは覚醒した。
「何…っ?」
振り仰いで、カーリーは上に載っているのが男だと認識し――次に、知った顔だと思い出した。
「ニック…!?」
「ああ…」
起きようとしたカーリーは、兄が手で突いてきて再びベッドに押さえつけられた。
手加減はされていたが、寝台で体がバウンドする。
カーリーは怒って見返し、睨みつける。
「何なの…っ」
ニックは顔を近づけてきた。明らかに唇を求めていて、カーリーはぎょっとして顔を逸らす。
ニックは気にもせず、そのまま耳と首筋に舌を這わせた。
「やめて!」
「いいだろ? 最後に…」
「何考えて……! あたし達、もう……!」
「ずっと、我慢してたんだぜ…、欲しいのにお前が嫌がるから――わかってただろ」
キャミソールの上から、乳房をやわやわと掴み上げられた。
「やだって…!」
「お前の胸、大きくなって良かったな、だろ?」
ニックは囁きながら、乳首を指先で摘まんでくる。
「乳首、服の上からこんな風にされるとヨワかったよな…、今もか?」
「やっ……!」
抵抗すべきなのに、全身から力が抜ける。
それをゴーサインと、ニックが思ってしまうのは分かっていた。
「嫌…、お願い」
「何でだ。気持ち、イイだろ?」
キャミソールが捲り上げられ、じかに兄の手が触れ、性急にしゃぶりつかれた。
「あっ…」
揉みしだかれ、甘い声さえ、止められない。
下着の上から、ニックの指先が割れ目を上下して擦り上げている。
ニックの荒々しい息と慣れた指遣いに、カーリーは否応無しに熱くなってしまう。
「可愛い下着、着けてんだな。あいつに見せるためか? 昔は違ったのに……」
「やだ…そんなこと、言うなんて――」
「でも、そうなんだろ? あいつの趣味……ガキっぽいな」
ニックの手がパンティを撫で回し、耳元で囁いてくる。
耳が感じることも、知られてしまってる。
「やめ……」
「あいつが、羨ましいぜ」
不機嫌でいながら哀れっぽい声に、ゾク、と寒気がした。
見抜いたかのように、ニックの手がパンティにかかり、足から外していく。
「もう、大人だな――お前の身体」
脂肪の多くなった乳房や、生え揃った性毛を、じっと見ながらニックが独りごちている。
「……っ」
期待、しているんだろうか……兄貴にまた、されること。
ずっと忘れたフリをしてきたのに。
何度もこうされた。
ニックの指が、カーリーの性感帯がどこで、どこをどんな強弱で触れば高まるか、すっかり覚えてしまう程。
脚を開かされ、ニックの顔が降りていく。
口での脚の間への愛撫も、すぐ馴染み始めていた。
ピチャピチャと音を立てて、犬みたいに舐められる。
だんだん感じるところを舌先が探り出して、
「ん…っ、ん…」
「感じるか? …感じてるお前、可愛いな」
「あっ!」
愕然とした――指が、入ってきたのだ。
一本とはいえ、充分な圧迫感を持って。
入れられたことより、ニックは今までカーリーの内部には何もしようとしなかったはずなのに裏切られて、驚愕していた。
「一本だ、痛かねえだろ?」
「やめて、指、抜いてよ……!」
一度、嫌だって言った後は……躯の中に何もしないから、許される気がしていたのに。
「まだ狭いな…、こんなのでデカそうなあいつのアレ、出し入れできんのか?」
ニックの淫靡な呟きに、カーリーは顔を背ける。
ひどい、こんな辱めを言うなんて。
内部を弄っていた指が出ていって――カーリーは唐突に、ニックが彼女の脚を限界まで開き、ペニスを手にしながら胴を割り込ませているのに気付いた。
中に入ってくる、位置につこうとしている……。
「やだ、嘘…」
思わず腰を引き、脚を閉じようとした。
「前はそこまでは……っ」
「昔はな…。お前が怖がったから、しなかった。だけど、もう」
閉じようとした膝を掴んで、ニックはぐいとまた開かせた。
「やめ…っ!」
「駄目だ、やめねえ」
「どうして……!?」
「前はお前が、バージンで――仕方無く止めたんだ。もう男を知って、ちゃんと開通してんだろ……」
いつもなら、昔なら、こんな下品なことは言わなかったのに。
「俺が貰いたかったが、兄貴が初めての男じゃ可哀想だったからな……、お前が、女になるのを待ってた」
暴れて逃げ出そうとしたカーリーを上から手で掴んで、ベッドに縫い止める。
倍近く上背があってフットボール選手の兄に、力で適うわけがない。
「嫌っ…」
「やらせて貰うぜ、ずっと入れたかった……入れたら、もう全部終わりにしてやるよ、蒸し返さねえし、厭味もナシだ」
「やめて……」
身を捩ったが、濡れた秘所にニックの先端が当たってきた。
――押し付けられる。
「嫌ぁあっ! やだあっ」
カーリーが恐怖から叫び、ニックが驚いたらしく動きを制止した。
「そんな、騒ぐなよ…、処女じゃねえんだ、もう怖くねえだろ」
「嫌――痛いの、いや!」
カーリーの叫びに、ニックは少し退く。
「まだ、痛えのか……?」
ニックは少し怯んだようだった。
だが激しい息遣いがして、まだ諦めていないと分かった。
犯されるんだ、嫌だって言ってるのに、無理やり――こんなこと兄貴がするなんて、信じられない。
信じたくない……。
「やだっ」
カーリーは必死でもがこうとした。
身体全体で上に載られ、悲痛な嗚咽が漏れる。
ニックが、息を詰めた。
「……入れちまえば、もう痛くねえと知ってんだろ」
「嫌…、お願い……っ、兄貴、こんなの、ひどい…っ」
「――ずっと、我慢してきたんだ、お前が……やめたがったから。本当は……したくて」
カーリーの泣き声に、ニックの表情が、歪んだ。
「お前から、俺に……していいって言ったんだぜ、もう忘れちまったか? ――俺はお前を好きだったから、すごく嬉しかった……俺、からはそんなこと出来ないからな」
「覚えてる、でも、こんなのやだ…っ」
「何でだ? 俺のイイところを、昔は触ってくれただろ……今から入れるペニスにもキスした」
「嫌…、やめて」
腕を押さえられ、脚は大きく開かされて、ニックの胴が腿に押し付けられている。
ニックの片手はカーリーに入ろうとする部分に添えられていて、位置を定めている。
まだギリギリで入られていないが、もう駄目だ。
膣の中に、ペニスを入れられてしまう――禁忌なのに!
カーリーはしゃくりをあげ、顔を背けた。
唇からむせび泣きが漏れ、しゃくりで体が揺れ動いて、密着したニックの硬い肉体にも振動が伝わってしまう。
ニックが息を潜め、聞き取れないほど低い声を出した。
「そんな、嫌か……泣くほど」
俺が、入るのは――…。
「う……ひっく」
「俺は……、」
出来なくなっても、ずっと、好きだった。
「これで全部終わりに、する、だから……、た、のむ」
「やだ…、いや……だって、兄貴なのに…っ」
「いいって、言ってくれ、最後にする」
カーリーは首を振って、涙で良く見えないままニックのほうを向いた。
「あたし…っ、嘘なの……」
「何…?」
「まだ、してない……っ、だから、痛いんだもん」
「――…」
ニックが黙り、独り言として言う。
「まだ、処女ってことか? クソ…」
カーリーは恥ずかしさも相まって、また涙を零した。
こんな格好になって、ニックが、止まるわけない。
ニックが手を伸ばして、カーリーの涙を拭ってきた。
顔を背けるカーリーに、訴えかけてくる。
「お前の処女、くれねえか…? 傷つかねえように、そっとしてやるから……、始めはちょっと痛いが、すぐに好くなる……」
「ひ……」
嗚咽しながらカーリーは首を横に振った。
嫌だった、こんな形で初めてを――奪われるなんて。
「……そう、か、そりゃそうだな、犯そうとしてるってのに、処女をくれも何も――あるわけねえな…ッ」
苛立ったニックの声音に、カーリーは身を竦めた……。
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past
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確かに、かつて誘ったのは、カーリー。
中学生のとき、両親は兄貴を見捨ててしまった。
兄なのにカーリーより狭い部屋で、家族の団欒にも加わらず、独りフットボールのボールを弄ってた。
カーリーには嫌味は言うけどいつも優しくて、同い年なのに面倒見てくれてた。
その時も、居間でパパに手酷く批判されて部屋に篭もった兄をカーリーは追っていった。
ノックしても応えないのでドアを開けて、ベッドに座るニックを隣り合って座る。
ニックの腕にカーリーは己の腕を絡ませて組んで、身を寄せる。
ニックは強張ったが、少しずつ力を抜いた。
「兄貴、パパの言うことなんか気にしないほうが良いよ」
「何とも、思ってない」
「嘘、強がってる」
「強がってない」
ニックは真っ直ぐ前を見ていたが、カーリーが手に指を絡めると、そこを見つめた。
「兄貴、来て」
訝しげに振り向いたニックに腕を広げ、ハグを示す。
鼻白んだニックを、無理に胸に入っていって胴に腕を回した。
「兄貴はワルなんかじゃない、あたしは、分かってるから」
しっかり抱き締めていると、ニックの肉体が呼吸する音まで聞こえるようだった。
ニックは腕を回してハグし返したが、すぐに解いて今は彼女の肩に置かれている。
「カーリー」
ニックが少し脅えたように囁いた。
カーリーは、気付く。
抱き付いていると、段々と息が深くなって、……体温が上がっている。
何と無くどういう意味か分かったが、カーリーはもっと固く腕に力込めた。
ニックはカーリーをゆっくりと引き離し、曖昧に頷く。
「分かった、だから、もういい」
「兄貴」
もっと抱こうとするが、ニックは背を向け、大きな手でカーリーを押して向こうにやろうとする。
カーリーはなおも腕を回し、横顔に何度もキスする。
手でこっちを向けて、唇にもチュッとした。
「よせ」
「兄貴ってば」
カーリーは兄の腕を掴んで引き戻そうとしたが、まったく動かない。
なので、思い当たったことを言って見たのだ。
「兄貴……立っちゃったの?」
「――…うるさい、馬鹿いうな」
「あたしで?」
「黙れよ!」
カーリーがビクッとして、ニックが己の口を押さえた。
「クソ…、違う、ちょっとおかしくなっちまって……、」
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