【―a virgin―7、8】
past
4
両親が二人とも泊り掛けで、ホテル・ハネムーンに出掛けた夜。
カーリーはバスタブで泡風呂を作り、身を沈めていた。
――今夜も、するんだろうな。
良く分からない、最近は。
キスされて、手で触れられて、舐められたりして……気持ちイイ。
でも、ニックはその先を望んでいることが、何と無く分かってきていた。
お遊びや、触りっこじゃなくて……、本当のセックスだ、男と女の。
でもそんなの駄目だ。
だって、血の繋がった兄と妹なのだ、許されるわけない。
ぬるい湯船に飽きて、蛇口から熱いお湯を出し、また泡を立てていた時だ。
バスルームのドアから声がした。
「……カーリー」
「やだ、兄貴!? 何?」
カーリーはタオルで体を隠そうとして慌て、もっと湯に沈む。
「入っていいか」
「何言ってんの? ダメ」
言いかけている間に、ニックがバスルームのドアを開けた。
まだ服をちゃんと着ていて、ホッとする。
ドアに体を寄り掛からせて体重を預けながら、
「入って、いいだろ」
「やだ」
「何でだよ。お前の裸なんて何度も見たのに」
「だって…独りで入りたい」
「いつもは、独りで入ってるだろ? 今夜くらい」
ニックは全然動こうとせず何やかや理由をつけて、カーリーを眺めている。
顔と湯の中の見えない体を見比べながら。
余り引かないので、カーリーはむっとしながら言った。
「何も、しないなら……」
「ああ」
ニックは含みのある笑みを浮かべ、隆々とした筋肉を見せ付けるようにシャツを脱ぎ、ズボンもパンツと一緒に脱いだ。
精悍で整った、ほとんど大人の男の肉体。
でもまだ成長期だから、線が細いところがある。
バスルームの光の中でははっきり見えてしまう。
カーリーは目を逸らし、バスルームに肩までもっと沈む。
ニックが入ってきて、湯が溢れた。
「こっち来いよ」
隣り合いに近付くと、ニックはカーリーの身体を上に乗せる。
ニックの手がカーリーの身体の表面を泡で撫でていき、脚の間に滑り込んだ。
「何もしないって言ったくせに…」
そんなわけがない、と分かっていたが、カーリーは最後の抵抗で文句を言う。
「しねえよ、お前が嫌なら」
「ずるい」
湯や泡ではないもので少しヌルつくカーリーの襞を、指先でなぞるのを繰り返す。
「ん…っ」
カーリーの細身が張り詰めて、いつになく震え、吐息が唇から漏れている。
興奮してんのか。
ニックが少し強めに擦り上げ、芯を持った粒をそっと撫でた。
「あ!」
細身の肉体が、反った。
「痛いか?」
「違う、でも……ヘン」
いつになく強い快感を感じている反応に、ニックは利き手の指先で襞をこすりながら、もう片方の腕でカーリーの身体を弄った。
特に立ち上がっている乳首を、泡の力で捏ねる。
「や、こんなのダメ…っ」
「お前……、イキそうなんだろ? 今まで、イッたことなかったのに……」
濡れた項を舐め、歯を立てる。
「あ、んっ」
振り向いたカーリーの唇を奪い、激しく吸い付いて乱れた息さえ攫った。
「ニック…っ、兄貴、や……っ」
カーリーは途切れ途切れに喘ぎ、全身を強張らせて、ニックの腕と身体に縋るようにして、達した。
ニックの名を呼びながら、イッたのだ。
――俺の物だ。俺の。
征服感できつく抱きすくめ、カーリーの痙攣を受け止める。
「はぁ…っ、あ……」
全身から力が抜けていく体が沈まないように抱き締め、カーリーの顔を覗きこむ。
閉じた瞼から涙が伝って、ニックは動揺した。
「痛かったのか…?」
「ううん」
「好かったんだろ……?」
「ん…」
カーリーは瞳を開けたが、まだ陶酔の態だった。
しどけなく身を預けて、ニックに向き直って寄り掛かり、腕を回してくる。
「ニックの、すごく立ってる……」
カーリーがニックの勃起をそっと撫でてきた。
「――…ッ」
再びカーリーの赤い唇を唇で塞いで、ニックは湯の中で利き手をカーリーの手に重ねて強くしごいた。
「ニックのはこんな強くて、平気なんだ」
カーリーの口調は気だるくて、信じ難いほどセクシーだ。
「クソッ……!」
てめえの手でなんかで、イキたくねえ。
すぐそこに身も心も愛してる、結ばれたい肉体があるのに。
ヤリたい、今すぐ、このままカーリーのすべてを俺のものにしたい。
でも、カーリーはどれだけ自分がソソるかさえ、気付かないで甘えてる。
こんな状態で、急に奪ったら、泣いちまうだろうな。
しかも、カーリーは初めて、初体験だから大事にしてやりたいのに、勢いで出来るわけ……ない。
――どれだけ、したくても、ここじゃ。
だが、今夜は、特別な夜に出来るはずだ。
シャワーを浴びて泡を流し、カーリーはバスローブを纏った。
ニックは体を拭いたバスタオルで下半身に巻いただけで、カーリーに見蕩れる。
親が居ない家って、サイコーだな。
菓子を食べて、ふざけて、隠して置いたビールも飲んで、朝まで一緒に寝ていられる。
カーリーも羽目を外して、顔を紅潮させて下品な番組に笑っている。
「やっだ、ねえ、見た?」
「ああ」
御座なりに答えて、ニックは時計を気にした。
「……なあ、もうベッドに行かねえか?」
「あ…、うん…」
妹の声は鼻に掛かった甘えた感じで、これなら行ける、と思った――。
親が翌日の昼に帰る、と電話があったから、急ぐ気持ちもあった。
シーツが換えられているニックのベッドに横たわらされ、バスローブの帯が解かれる。
ニックがキスを求めて、カーリーは応えた。
すぐに舌が触れ合って、唇を小さなキスで鳴らしながら、絡ませる。
少し激しくても、カーリーはもう苦しくなく、夢中になれるようになっていた。
口づけで息が上がって、ニックは唇を離して額をカーリーのそれに押し付ける。
「イッたの、気持ちよかったか?」
「うん…。気持ちよかった、すごく」
「お前をイカせられて、嬉しい」
「ん…」
「なあ、カーリー……お前は、俺のものだろ…?」
今夜に限って、いつになくニックは真面目で、真剣だった。
「妹だもん、そうだよ、そうだけど…?」
少し怯えてカーリーが曖昧に笑うと、ニックは少し口の端を上げたが、じっと見つめてきた。
愛撫も、いつもより丁寧で、情熱的に感じた。
返礼を返さなきゃ、と思ってニックの下半身に手を這わせようとすると、やんわり止めさせられた。
驚いて見返すと、口であそこを舐めていた体勢のまま乗り上がって、ニックはじっとカーリーを見ている。
手を伸ばして、快楽に振って乱れた髪を顔からそっとよけてくれた。
指先がかすりもしないほど、そっとだった。
「俺がお前と、こうなれてどれだけ…幸福か、もう言ったか?」
「ううん……そうなの?」
「ずっと好きだったんだぜ。お前はいつも聡明で人気者。なのに、俺に優しくて、味方だったから、いつの間にか……好きになってた。変だから、やめようとしてたんだ、お前が怖がったり、嫌悪、するに決まってると思ってたから」
カーリーは不思議な思いで聞いていた。
家族なのに、嫌悪するわけないし、好きなのだって家族だから、当然なのに。
何を……?
ニックの双眸は、カーリーを見るときといつもそうだが、優しそうで喜びに溢れて、そして怖いほどひたむきだった。
そんな兄を、可愛い、と思ってきた。
こうならなければ、こんな目は見れなかったような気がするが、何故なのか……。
「叶わぬ夢だと思ってたんだ、お前と…こんな風になれるなんて」
ちり、と首筋が総毛立ちそうになって、カーリーは無意識に黙っていた。
「今夜、……いいか?」
「え…?」
ニックは言いあぐねて、己の唇を舐める。
みなまで言えない――お前の中に入れても良いかなんて、恥ずかしいから――誤魔化して、また訊いた。
「俺たち、もう……、いいだろ?」
「何……?」
「優しく、する。お前が辛くないように――辛かったら、やめる。だから全部、俺に、くれ」
「――…」
「ちゃんと、ガードするから」
ニックはカーリーの脚の間に胴を入れている。
肌で重なり合うのではなく、股間同士を合わせるように。
先程までニックはカーリーを見ながら、己の手で、棒を擦っていた。
ニックは身を起こして、ベッドサイドテーブルからコンドームの袋を手にとって破き、完全に勃起したペニスに被せた。
カーリーは息を飲んで、その手馴れた様子を見ていた。
コンドームをしているのは、その部分をカーリーに挿入するつもりだから。
――何で。
だって、あたし達は血が繋がってるのに。
こんなことしちゃいけないのに、セックスするつもりなの?
ニックが覆い被さってくる。
「兄……っ」
思わず強張ったカーリーに、ニックが熱っぽく、哀願するように囁いた。
「ずっと愛してた。俺には、お前だけだ」
「や……やだ」
イヤイヤをするように、カーリーが身をよじる。
「お前と……一つになりたいだけだ、疵付けないように、やるから」
腰の位置を動かし、ニックの膨れ上がった身体の一部が、カーリーの奥まった場所に当たった。
「やだ、ダメ! やめて!」
「カーリー……」
ニックが呻き、反射的に押さえようとする。
「嫌、こんなのおかしい……っ」
「カーリー?」
カーリーは、彼女の泣き声に力をすぐに緩めたニックを突き飛ばして、必死に逃げ出した。
ベッドの端に行って、体を二つ折りにして泣きじゃくる。
「どうして、こんなこと……っ、兄妹なのに…早く気付かなきゃいけなかったのに、あたし…っ」
今更何を、とニックが訝しがる。
ああ、そうか、初体験が怖いのか、と思う。
ニックは本気で今夜、カーリーを抱きたかった――妹と違って、ずっと前に”男”になっていたから。
挿入して、包まれて腰を動かすのがどれだけ満たされて、快楽か、知っていた。
ベストタイミングだと思った、今までになくイイ雰囲気だったし。
でも、初めてのカーリーを怖がらせて、泣かせるなんて、絶対に望んでいない。
「悪かった、もうしねえよ、待つから……、泣くなよ」
近付くベッドの軋みに怯える妹に、ニックは己を内心でなじる。
欲しがるのが早過ぎたんだ、ずっと我慢していたから……焦っちまって。
畜生、カーリーはまだコドモなのに、無理に進もうとして、こんなに泣かせるなんて。
もう、したくなくなっちまうかも――。
「なあ…」
ニックが肩に触れると、カーリーが払い除ける。
「嫌ぁっ、触んないで!」
「嫌なら、しなくていいんだ、だから…」
「あ、あたし、こんなつもりじゃ……、兄貴が喜ぶから…してただけよ、ただの触りっこだからだもん、こんな――近親相姦なんて気持ち悪い……!」
言葉の意味を捉えるのに、ニックは数秒を要した。
意味するところを知って、呆然と、する。
「……ッ」
嘘、だろ。
ニックは、身を丸めて泣きじゃくるカーリーを見て、動きを止めていた。
声も、息さえも。
俺、は――愛し合ってると……、カーリーはまだ無垢で目覚めていなかったから、だから良く分からなくても、男と女として求め合ってて、それで。
優しく互いを慈しみ愛しあいたかった、それが自然なカタチだと。
俺だけその気で、穢してたってのか、カーリーが何も分からないから。
畜生、何だよ、それ――。
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酷いこと、した。
カーリーがいいと言って始まったのに、ニック一人悪者にして、自分だけ無罪になろうとした。
もちろん嘘をついたわけじゃない、あたしは本当に、触りっこのつもりだった。
恋愛じゃないから近親相姦でもないって考えていた、でも……どこかで分かってもいたのに、あの時コトの重大さに恐くなって、咄嗟にニックだけのせいにした。
ニックは初めから全部分かって……、カーリーが応える前から独りきりで耐え忍んできたのに。
ニックは二回も――数えればもっと、やめてくれた。
いつも己の欲望より、カーリーの意思を尊重してくれた。
ニックは乱暴者みたいに思われているけど、レイプなんか出来ない。
先日もそれが良く分かったわけだが、それでも顔を合わせたくない気持ちはある……。
でも、親から頼まれれば仕方がない。
カーリーは家でも、優等生だから。
彼女はいつかのように、ドアをノックし、答えがないので勇気を振り絞って、堂々とドアを開けた。
「ニック、いるんでしょ?」
カーリーが入って行っても、ニックはベッドにこちらに背を向けたままだった。
「ニックってば。起きてるんでしょ? 寝たふりなんかして……」
怖くはない。ただ気まずいだけ。
レイプされかかったのに不思議だが、だって、ニックはやめてくれるから。
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