【―a virgin―9、10】





カーリーはベッドにそうっと腰掛け、このベッドで随分前にされそうになったことを思い出しそうになって、急いでやめる。

「お昼作ったから、食べにきなよ。もうパパもママも出掛けたから…」

ニックの肩に手を置くと、固く強張って起きていると分かる。

カーリーの手が触れた途端、ニックはぴくりとした。

「やめろよ…、俺に構うな」
 
ニックの声はいつになく弱々しく、そのことに驚いた。

「どうしたの?」

「もう、やめろ。親に言われたからって――…、俺を見たくもねえだろ」

「何、言って……」

カーリーも思い当たって黙るが、ニックもしばらく喋らないでいた。

「お前を、犯そうとした……」

消え入りそうな声だった。

「そのことは、もう…っ」

「あんなこと、するつもりじゃ……なかった。だが、やったんだ」

「やめてよ、途中でやめてくれたじゃない…」

「そういう問題じゃない、分かってんだろ。クソ……お前にあんなことするなんて」

「兄貴」

ニックは腕で顔を覆った。

まさか、泣いているのだろうか。

カーリーは手を再び伸ばして、ニックのこちらから見える頬に指の甲で触れた。

「ニック」

「やめろって言ってるだろ。俺は、まだお前のこと……、クソッ…! おかしいんだよ」

ニックが吐息だけで、言った。

「兄貴――」

どうして、ニックにあんなことが出来たんだろう。

独りぼっちにするなんて。

カーリーは後ろから腕を伸ばして、ニックの肩を抱いた。

そしてニックの耳に口をつけて囁く。

「ねえ、いいよ……、しても」

――一瞬後、寝返りのように振り向いたニックに押し倒される。

見知った頃より数段逞しくなった、ニックの体躯の下に引き込まれる甘さを、もう拒まなかった。

「あ…」

「カーリー、お前……どうなるか分かってんのか? もう、やめてやらないぞ…」

「嘘つき…」

「何が」

「兄貴は、やめる……、約束したし、ホントは優しいヤツだから」

「――…」

ニックは一瞬黙った。

まるで、禁忌だが愛し合ってる、と信じていた頃のカーリーの甘えた口調だったから。

ニックの顔が近付き、貪るようなキスを受ける。

ニックの手付きは何かを忘れようとするかのように暴漢ぶって、乱暴にカーリーの服を剥いていった。

でも、どこか手加減していて、カーリーが身を強張らせながらも大人しくしていると、止まる。

今度はゆっくり見せ付けるように、シャツを脱ぎ落とす。

早々と身体同士を重ねられ、カーリーが心地良さと不安に目を閉じる。

「ん…っ」

首筋を舐め、乳房を揉みしだきながら、ニックが息だけで訊いて来た。

「もう、あいつとヤッたのか…?」

だから、ヤルのか?

低くかすれて、嫉妬していると分かる。

「ううん…、まだ」

「……へえ、まだバージンかよ。また途中で泣き出してやめる予定か?」

ニックの手も口も止まらないまま、憎まれ口が返ってきた。

「違うよ」

「じゃ、どういうつもりで……」

「兄貴、欲しいって言ってたから…」

ニックの荒々しい手が、止まった。

カーリーをごく近くで見下ろしてくる表情は平静を装っていたが、目は驚きを湛えている。

「―…、くれんのか?」

「ん…」

「あんなに嫌がってただろ、突然何だよ」

カーリーはまた憎まれ口を叩こうとしたニックに、釘を刺した。

「もう欲しくないならやめて。憂さ晴らしでやるとかはやだ…、大事にしたい……初体験だもん」

「俺だって、お前の初めては大事に思ってる。でなきゃ、何度もやめるかよ」

ニックの言葉は苦しげな唸りで、唐突に覆い被さってカーリーが痛いほど抱き締めてきた。

「俺は別に……、お前が、兄弟だからセックスするのが嫌なら、なくたって、いいんだ……、前だってそうだったのに何で――…ッ」

カーリーが首を横に振った。

「ダメ……、兄貴、約束して…、前に言ったよね、もうこれで全部終わりにするって」

ニックが顔を上げる。

見つめあって、カーリーがちょっと微笑む。

「そうしなきゃ、ダメだから…」

「だから、くれんのか? 全部、終わりにしたいから?」

「違うよ、兄貴のこと愛してるから……。いけないことだけど、兄貴はいつも優しくて、楽しかった……だから初めては、兄貴に―…」

言い終わる前に、唇を奪われた。

体験したことがないくらい激しくて、すべてを奪うような口づけだった。

声も出ないほどだったが、カーリーが息継ぎのときに必死になって告げる。

「兄貴、約束…っ」

「分からねえ、約束しても守れるか…」

「やっ…、そんなのやだ……」

「ああ、だよな」

長く続く口づけで奪い尽くされて、横になったままのカーリーを見ながら、ニックはズボンを脱ぎ捨て、全裸になった。

思わず膝を閉じたカーリーの脚を、膝頭から手を入れていき、内股を撫でる。

「怖いか…?」

「ん…、でも、優しくしてくれるって言ったよね」

「ああ、誰より優しくしてやる、後悔させない」

内股に手を入れてカーリーの慄く脚を大きく開かせ、ニックはいつもの通りで、秘所を舐めてきた。

粒をこすって、カーリーが溜め息を吐く。

甘い悦びが広がり、下腹が張った。

「いいか? ここ…」

カーリーは頷き、執拗な擦り上げに耐える。

「やだ、ウェイドより全然気持ちいいんだもん…」

「何度も、したからな」

いつもと違うのは、カーリーが悦びに震えた息を吐き始めると、指、が。

まずは一本、挿入されてきた。

「んん……っ」

「痛いか?」

「ううん」

一本が、少しの間中を探った。

次に、二本になってまた挿入しようとしてきた。

「痛い…っ」

「これで、か……」

また指が一本に戻り、何度かピストンする。

「また、入れてみるけど、いいか」

「うん…」

少し痛いくらいに広げてきて、また二本で挑んできた。

「痛っ」

痛いのに、今度はとば口より先に指を入れられてしまい、カーリーは身を捩った。

「はぁっ…」

「お前の狭いな――、こんなことでこんなに痛がって、出来んのか?」

見下ろしてくるニックが困惑してるのが分かった。

「分かんない、ちょっと、怖い」

甘えて拗ねると、ニックが少し沈黙し、思案している。

「……、今日は指でだけやって、また今度、挑戦するか? だんだんすれば、多分、ツラくなくなる」

別にそれでもいい、また抱けるから。長引かせたって、いい。

でも、本当は、すぐにでも欲しい。



カーリーはニックの困り顔を楽しみ、少し微笑んで首を振った。

「いい、する」

「でも、初めは辛いの、分かってるか」

「…分かってる」

ニックはためらいながら、挿入の位置についてカーリーの腰を少し持ち上げた。

手を添え、慎重にカーリーの膣口に押し当てる。

「いくぜ」

前も思ったが、指よりもずっと大きい……、だけど、ニックのあの部分だと思うと、受け容れる気になっていた。

しかし、すぐに叫声が上がった。

「痛い!」

「そんなに痛いのか?」

「痛いよぉ…っ」

ずる、といったん引き抜かれた。

「もう一度、試していいか…? でも、ひどく痛えなら…」

確かにここまで痛いなんて予想外だった。

ペイジは少しチクッとするだけだったって言ってたくせに……嘘吐き、全然違う。

裂かれちゃうみたいに、痛い。

「――いい、して」

「だけど、お前…」

「いい……、兄貴にあげたい。だって、あたし酷いことしたから……っ」

「何?」

「あたしがいいって言ったのに恐くなって、兄貴のせいにして、あれから話もしなかった…、あれじゃパパとママと同じなのに」

「カーリー」

「…ごめんね」

「お前…、バカだな……、お前に触れられて俺がどれだけ…っ」

ニックは吹っ切るように、また脚を抱え上げて、強く入ってきた。

「うぅ…っ」

「声、出せ……、その方がラクだから」

「いた…っ、あ……っ」

カーリーがこじ開けられて痛がり、ニックはまた引いた。

離れると痛くないので、少しホッとする。

ニックがやめてくれるから……。

何度か試して、力が抜けたところに、再々度ニックが入ってきたその時、違う感触がして易々と奥まで入れられた感じがした。

「ん…、はぁ……っ」

カーリーは大きく息をして、もっと痛くないように力を抜こうとする。

痛みも悲鳴が上がるほどではなくなっていたが、まだ痛い。

「お前、もう、バージンじゃないぜ…」

「あ…っ」

ニックの声音はもう落ち着いていて、耐えられる程度だと分かられてしまった。

悲鳴も上げてないし、当然かも知れないが、自分の躯なのに少し癪だ。

ニックがゆっくり動き始め、耐えられる程度の痛みが、だんだんと少しずつ軽くなる。

「ふ…っ」

でもまだ痛くて、カーリーは無意識に逃げようと、体を何度も引きそうになる。

全身に汗が滲み、我慢して顔を枕に押し付けると、ニックの動きが止まった。

「つらいか…?」

痛みと喘ぎのせいで潤んだカーリーの瞳で見返され、ニックが迷っていた。

「ツラいなら…、抜いていいんだぜ、もう処女は貰ったからな」

「い…よ、ニックがイクまで…っ」

「でも…、優しくするって言っちまってるし、な」

「いい…から、して」

喋るのが億劫だった。

奪われていると何も考えられないのだ。

「カーリー…」

ニックが申し訳なさそうにしながらも、再び動き始める。

そっと、ニックはクチャクチャと腰を浅い所で摩擦した。

そんなやり方、嫌……もっと激しくして欲しい。

変な気分だ、苦痛のはずなのに。

「次はもっとラクになる…」

次?

次って、兄貴がするつもり…なの、ダメなのに。

途切れ途切れの思考で考え、体が震える。

「やぁっ」

少しずつニックの息遣いが荒々しくなり、動きが激しくなった。

ニックの体が突然上に覆い被さってきて、棒の位置が変わりカーリーが違和感に息を詰める。

「あぁ…っ」

ニックはそのまま動きを止めていた。

「ウ……」

ニックの腕の筋肉が痙攣し――イッたんだ、とカーリーにも分かる。

終わっても、ニックはしばらくその体勢でいた。

それからゆっくり引き抜き、ゴムを捨ててすぐ戻ってきて――ぎこちなく起きようとしたカーリーを再び腕に抱いて、横になった。

「お前のこと、無理にしないで……良かった。酷いこと、しちまうとこだった」

ニックの声は、心から悔いている。

カーリーはこんな痛いことをされたので、ちょっと意地悪をしてやりたくなった。

「実際にしたことだって、充分酷かったけど、痛くなかったなら無理に入れてても、それはいいの?」

ニックの息が止まり、腕が固まる。

「悪かっ……、お前が、あいつに初めてをやったと思って、我慢、できなくなっちまって…、クソッ、傷付けるつもりじゃ――」

思った以上に効果があったようだ。

与えたい以上の打撃で。

「いいよ、痛いこともしないで、やめてくれたんだから」

「だけど…」

カーリーはニックの固い身体に腕を回し、胸元にキスした。

「ね…もういいから、あたしって良かった…?」

「ああ、…最高だった――お前は、痛そうだったな。やってて、可哀想だったぜ」

「ん…、こんなに痛いなんて思わなかった」

こんなことが、本当に気持ち好くなるんだろうか。

カーリーの疑問を見抜いたように、ニックが熱く囁いてきた。

「…お前が気持ち好くなるまで、慣らすのに付き合ってやろうか…?」

「何言ってんの? あんな痛いことしといて」

「おい…、誰でもこんなやり方すると思ってんのかよ? 俺だって、他の女にこんなに気を遣うと思うか? これは……特別大サービスだってのに」

「そんなの分かんない、あたしは……」

兄貴しか、知らない。

その事実が嫌になって起きようとする。

「イタ…」

ニックはカーリーに腕を回して、起きさせなかった。

「まだ、このままで」

「ダメだよ、ママ達が帰って来たら」

「部屋までは来ねえよ」

言いかけた唇は、また甘いキスで塞がれる。

それにしても、起きるのも痛いなんて。

全身は怠くて、恥ずかしい所が痛む。

それなのに、疲れさえ甘美で、満たされてる。

また試してもいい、なんて思ってる。

たぶん、他に経験はないけど、ニックが、優しく奪ったから。

すごく痛いことはされたけど、ほんの少しも嫌なことはされなかった。

皆、こんな風に抱かれてるのかな。

それとも、ニックが言ったように、これは大サービス?

すぐに分かる……次はもう、兄貴じゃない男の子とするのだから。

ニックの手が、背中を撫でている。

その手付きは信じられないくらい快くて、丁寧だった。

眠くなりそうなくらい。

「なあ…、もう全部終わり、か?」

「うん…」

「何でだ? こういうの、いいだろ、また……、お前がまたやりたくなるように、優しくしてやったんだから」

「兄貴……!」

カーリーはニックの胸を押して、怒りを見せた。

「嘘にする気? あたしのこと…、したら、約束だって言ったくせに」

「悪い……、冗談だ」

ニックは唇を噛み締め、目を逸らした。

傷付いている。

カーリーにも、冗談じゃないことは分かっている。

ニックはまだ、すごく、したがってる。

――絶対に秘密だけど、あたしも。

慣らしてくれるのが、ニックだったらいいのに、と思ってる。

次にラクになったのを、また今みたいにニックで感じたい、とも。

そして、ニックが困るほど痛がるんじゃなくて、ニックが入って来るのを、悦んであげたい。

本当は初体験でもあんなに痛いと思わなかったから、今回、ヨガってあげられると思っていたのに。

いつもカーリーが気持ち良いようにしようとしてくれるニックは、彼女がニックのペニスで悦べば、どれだけ嬉しがるだろう。

そうしてあげたい、いつもされてばっかりだから。

だから、カーリーはニックが謝った後は、顔を上げなかった。

本当は求めている気持ちを、ニックに見抜かれたら、困るから……。





fin.






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