BH 2
赤くぬれた唇。
シャワーを浴びた後の、濡れた髪と姿態。振り向いた時の、きつい眼差し。
従えたくなるような気の強さ。
愛らしい外見を裏切る、下品な口調。
見たときから、魅入られていた。
腹の底から突き上げてくる、征服欲は、いかんともしがたい程。
今は手の中にある。どうしようと、バットマンの自由。
征服欲は手と、バットスーツに隠された下腹を熱く蠢かせる。
――欲望。
それぞれの顔を持つことで分断された欲望が沸き上がって、手に汗を握らせた。
いや、これは分断された人格であるバットマンの……性欲か。
今までずっと秘されてきたはずの。自警を行う独善的で、激しく、暴力的な、クライムスターの。
好みなのか。バットマンの? それとも?
「……! やだっ……」
ハーリーンが反射的に声を上げる。男の手が、意志を持って乳房を掴んだからだ。
重量を確かめるように若々しい張りを保つ輪郭を撫で、硬くなった乳首で留まる。
後ろ手に縛られた両手は片方の手で――バットマンにとっては利き手でない方で、固定されて、ハーリーンは横向きの体勢から起き上がれない。
体格のいいバットマンは片手でハーリーンを押さえただけで動きを封じ、女の全身を眺めることが出来た。
バットマンは利き手で簡単に乳房を弄んだ後、贅肉のない白い下腹に手を当てた。
細い。躍動が高機能のグローブを通して伝わってきた。
バットマンを止める声もある。
どうする気だ。犯すのか。男根を捻じ込み、最大の屈辱を与えて、踏み躙るのか。
そうしてしまえばいい。相手は犯罪者だ。冷酷に扱って良い相手。
ジョーカーに、仲間を差し出した返礼を与えればいい。
否、そんなことは、出来ない。
悪魔の囁き声に吐き気さえする。だが、バットマンの本心でもあった。
犯さないとしても、今だって、遣り過ぎだ――俺は勃起している。尋問でも拷問でもない、神経ガスのことなどどうでもいい。
(これが、メイクラブなら……俺のものに)
馬鹿馬鹿しい、相手は俺を憎んでいるのに。
ハーリーンは、もう一度バットマンを跳ね除けようともがいて、もっと無防備な姿になった、バットマンにとっては。
彼女は爪先に力を入れて、腰を持ち上げたのだ。
バスローブがはだけ、あらわな白い尻を持ち上げる恰好で。
金髪の薄い茂みから、重ね合わされた赤い陰部が丸見えになった。
バットマンのものを受け入れられる秘所が。
まるで少女のように小さい花弁に視線が釘付けになった。
興奮と警戒のためか、または胸を触られた快感のためか――感じたのか?――女の花弁はうっすら光沢を放っている。
「う……っ」
涙声に、バットマンが顔を上げると、嗚咽だった。涙が伝っている。酷く愕然とし、思わず下腹に置いた手を放した。
ハーリーンはバットマンを振り返り、泣いていると認めたくないのか、なおも、がなった。
「やりなよ、やれないの? この臆病蝙蝠!」
「まだ罵る気か。怯えているのは、お前だ」
今後は、ハーリーンの顔にカッと朱が奔った。見透かされたことへの、恥ずかしい気持ちのためだろう。
このまま甚振りたい。悔しそうな表情が、ますます情欲を掻き立てる。
バットマンは腹の中で唸りを押し殺し、押さえる腕に力を込めた。
湿ってはいるが閉じられたままの二重の陰部に、バットマンは指の甲で触れ、無意識に呟いた。
「熱い」
「やあっ」
ハーリーンが再び暴れたせいで、別の生き物のように蠢くそこは、男の雄性を最高に刺激する。
指を裏返し、今度は指先でなぞった。披いた中心に、一際敏感な粒を探し当て、人差し指で押してやった。
尻が怯えでもなく、抵抗でもなくビクッと揺れて、蜜が染み出した。
躊躇なく、バットマンは顔を寄せた。舌で、舐めたのだ。
(甘い)
禁断の蜜は、言いようのないほどの興奮剤だった。いわゆる、媚薬か。
同じくしてあがった女の驚きの声も、どこか媚を含んでいるように感じた。
その気になった男の幻想だと冷静な頭のどこかで分かってはいたが。
ハーリーンの身が今度は意志を持って跳ね、小鹿のような脚が振り切ろうと抗う。
それを押さえ込むために、バットマンが膝を絡ませて、反対に男と女の身体が密着した。
『お前は、俺のものにする』
そう宣言して、怯える顔が見たかった。
一線を越えてしまいたい。そもそも、もう既に越えている。
過度な暴力を振るう欲求も、性欲も、ずっと禁欲してきた、バットマンの欲望はここにある。
……せめて、出して扱きたい。俺のもので穢してやりたい。限界まで膨張しているのだ。
今、バットマンの股間には、伸ばされた女の脚がある。
擦りつけたかった。白い美しい、薄く筋の浮いた女の足は扇情的だ。
ハーリーンは。
はじめは気付かなかった……バットマンの股間の隆起に。
必死に逃げようと、そればかりだったから。
それにバットマンは性欲もあろうが、これは拷問であって欲を満たす行為だとは思いも寄らなかった。考えたくなかったのかも知れない。
犯されそうになっているなどと!
相手は歪んだ形とはいえ正義の味方だから、違うと思いたかった。
でも……脹脛に触れた勃起に気付かないはずがない。
心なしか息遣いも荒々しい。
「嫌……」
恐怖に漏れた儚いハーリーンの言葉に、バットマンは今までに無く大きなショックを受けた。
思いのほか深く暗い欲求を、その弱音が満たし、突然我を取り戻させたのだ。
拘束していた手を放し、ハーリーンの細い顎に添えて、顔を見ようとする。
が、バットマンの導きで振り返った若い女は。
バットマンの顔面に――唾を吐き掛けた。
「そんなに大きくしやがって……犯しなよ。やってみなよ! できないの? 腰抜け!」
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