BH 5






 ハーリーンが伸び上がって、バットマンの唇に口を近づけてきた。

 コウモリは固く口を閉じて開けようとしない。

 ハーリーンが腕を首に回そうとすると、素早い動きでバットマンが、その手を掴む。

 彼女は、哂った。

「もう毒は仕込んでないって……」

 もう一度顔を近づけるが、やはり、バットマンは顎をのけぞらせ、キスを拒んだ。

「したくないっての?」

 ――拒まれて呆気に取られた一瞬のハーリーンは、愛らしかった。次に浮かび上がった表情、羞恥と、仮初めの怒りも。

 バットマンの胸板が大きく上下し、先程まで無防備な寝床の姿を見ていて、密かに感じていた情欲があからさまに燃え上がった。

「抱かれたいのか」

「そういってるのが、分からない? 態度で言ってるじゃないか……わっ!」

 ハーリーンは突然ふわりと抱き上げられ、ベッドへと運ばれた。

 思わず戸惑って笑い、気付いたときにはベッドに下ろされていた。

 何て、手早い。

 ハーリーンの首筋に顔を寄せたバットマンが、低い声で言った。

「嫌なら、そう言え。やめてやる。だから、二度と、死のうとなどするな」

「……もう、しないよ」

 俺が――手を拘束もしないで、ベッドの上で馬乗りになることなど出来ないと思っていた。何度も、想像はしていたが。

「ん……」

 仰向けになって盛り上がった乳房を、バスローブの薄い生地の上から、手袋をつけたままの大きな手が包んだ。
 
 緊張と期待で敏感になった乳首が立ち上がり、バットマンの手の平を押し返してくる。
 
 バットマンは円を描くように撫で回し、乳房が揺れるのを愉しむ。

「あ、んっ」
 
 微かに上がった嬌声に、強張ったままだった男の口許が緩み、笑みを刻もうとして歪んだ。
 
 バットマンは肩から腕を撫で下ろし、手を重ねた。

 ハーリーンが肌蹴たバスローブの間から顔を寄せて、桃色の突起に吸い付くのを見て、囁いた。

「ヤルなら、全部脱ぎなよ、マスクもね」

「脱いでもいい」

「え、うそ。ホントに?」

 我に返ったハーリーンが、半身を起こした。

「その代わり……」

 バットマンの手には、手錠とアイマスクがあった。ハーリーンのものだ。

 アイマスクはいいとして、手錠はジョーカーと楽しむとき用……ではなく、患者や警官や正義の味方を拘束するとき用の。もしかしたらバットマンをも、捕らえたかも知れない手錠。

「……初めてで、そこまでは、ちょっと」

 バットマンの冷ややかな視線と共に犯罪の証拠を突きつけられ、ハーリーンはちょっとバツが悪そうになった。
 
「じゃあ、せめてアレ、見せてよ。いつも私だけ……」

 気を取り直してハーリーンが口を尖らせる。

 バットマンが鼻で溜息を吐き、ベルトを外して、バットスーツの下半身の暗証番号を打ち込んだ。

 ハーリーンが気付いて番号を知ろうとした時には打ち終えていたが、明日には変更するつもりだ。

 女の興味は、すぐに他のものに移った。

 目の前の大きく太い男根に。

「大きい……」

 おずおず手を添えて、ハーリーンが口を開ける。

「やめろ」

 ハーリーンのおとがいを取って、仰向けさせる。

「でも、前に」

 言葉の途中で、ハーリーンは蝙蝠に口に喰い付かれた。

 そうだな、目隠しなどと、邪道だ。

 バットマンは、怪人にありがちな無邪気さと残虐さを秘めた、美しい鮮やかな青い瞳を覗く。

 悪魔の瞳ほど美しいものだ、と思いながら。

 探るようにキスしてから、舌を差し入れた。甘い唾液を吸い、縮こまっている舌を誘い出そうとする。

 次第に本領発揮――大胆に口腔内を舐め回し、犯し始める。

 どれだけ口接けたかったか、言葉にさえならなかった。

 ハーリーンが口を離して、大きく息を吸いながら言った。
 
「頭の芯、融けそう……」

 バットマンは、ハーリーンの言葉を聞いて、飢えた様にまた唇を奪った。奪わずにはおれない。誘い出された舌を、舌で愛撫する。

 バットマンがまだ若々しく締まった腹を撫で下げていく。

 ハーリーンが少々暴れた。

「手袋したままじゃ、やだよ……」

 その声は、バットマンにこちらからして欲しいことを要求することへの、不服そうな響きがあった。

 確かに、これでは失礼か。バットマンの口が笑みを刻むのを見て、ハーリーンがムッとしたようだった。

 バットマンは利き手の手袋と手っ甲を外し、再びその手を脚の間に捻じ込んだ。

 下腹同様、まだふっくら膨らんだ割れ目に包まれ、普段扱う武器やグローブの無粋さを思う。

「ヤッ、だめ……」

「――どうした」

 嫌か、と問うべきなのは分かっていた。嫌ならやめると言ってしまったのだ。

 ここで、嫌、か――?

 拷問の仕返しか。これこそ、拷問だ。

 だが、そうではなく。

「だって、凄く濡れてるから……」

 軽く首を傾げ、眉を上げた、そんな雰囲気のバットマンに、快楽とは別の理由で顔を赤くしたハーリーンは口をへの字にして、むくれて見せた。

「なぜ、怒る?」

 確かに再び差し入れた手には、溢れた生温かい蜜がまとわりつき、指先で掬えるほどだった。

「美しいな」

 指先で粘って光るものを口に持って行き、バットマンがハーレイを見ながら舐めた。

 それから足を抱え上げ、戸惑いもせず内股に顔を寄せる。

 冷たい兜が内股に張り付き、熱い舌が割れ目をなぞった。

「ひゃ……」

 前も……うつ伏せにされて、腰を高く上げさせられて、舐めたりなぞられたり、した。

 口許でピチャピチャと音がする。蝙蝠の兜の立ち耳が、獣のようで。まるでミルクを舐めているかのようだ。

 ハーリーンは意地なのか、一回慄きで声を上げた以外は、唇を噛み締めて噛み締めた息しか出そうとしない。

 バットマンは自分を抑えられなかった。
 
 犯罪者が魅力的だったから、犯している。恥ずべきだと思いながら、どうしても欲しい。

 ハーリーンの唇に指を押し付け、指で口を抉じ開けようろとする。

「な……っ?」

 驚いたのか、案外あっさりと唇を割ることが出来た。

「好ければ、啼け」

「……ッ」

 バットマンは。大きく開脚した花弁の中心で、自己を主張する弱弱しい快楽の実に噛み付いてでも、叫ばせたい衝動を抑えるのに苦労する。

「ん、あ……あ」

 実を吸い出すように吸うと、益々熱い蜜が流れ出して、四肢が強張る。

 そうだ、こうして、従えたかった。俺が与えるもので支配したかった。






6 本番